年俸制度も多くの経営者からご相談があります。ただ、事前に理解する必要があるのは、労働基準法などで「年俸制度」といった概念はないということです。
「ウチの年俸制度は残業代や休日出勤などもすべて込みこみだからよろしく!」と言った考え方には法的根拠はありません。この辺が年俸制度を導入するときの注意事項になります。
年俸制度の便利な面は、給与を成果によってドライにとらえられる所です。例えば、営業の仕事で、次のように売り上げに対する年俸額を設定したとします。
もちろんこれだけの情報や区分では不十分ですが、売上額に対する年俸額表のイメージの一例です。
年俸額(年収)がはっきりしているので、月給は12で割る、あるいは、14で割って1年に2回、ボーナスとして1か月分を支給します。
この例の場合の年俸制度のルールでは、本人の売上額が決まれば、給与が決まります。人事評価や上司評価の必要はなく、売上額だけが基準となります。とても運用がシンプルで分かりやすいです。そして、売上額に対してビジネスモデルや会社の収支をしっかり計算して年俸額を設定できるので、人件費によって経営を圧迫するリスクは低いと言えます。
このように考えると年俸制度はとても良い制度のようですが、年俸制度にはデメリット(注意しないといけないこと)もあります。
主な注意事項は次の3つです。
① 年俸制度でも時間外勤務や休日出勤の管理をしなければならない。
② 経験や社歴ではなく実力が重要となるので組織運営に気をつかう。
③ 成果に対する年俸額を部署や職種ごとに決めなければならない。
①の時間外勤務や休日出勤については、労働基準法でルールが決められています。仮に会社と本人が合意をして「年俸制度だから時間外手当は必要ない」としても法的には認められません。
この対応方法としては、例えば、年俸360万円、月給30万円とした場合、月給30万円のうち、10万円はみなし時間外手当などと設定して、この範囲内で残業をしてもらうことです。仮にこの金額を超えて時間外勤務をした場合は、年俸額の取り決めとは関係なく、残業代を支給する必要があります。
②の対策として年俸制度を導入している会社の多くは、前述の例のように売上額だけを年俸額の基準とするのではなく、役職手当を設定したり、役職別の年俸額表を設定したりしています。このように何か対策を施さないと売上至上主義になり、チームとしての組織運営がうまくいかなくなる可能性が高くなります。
つまり、年俸制度と言っても売上額だけでなく、結局はマネジメント力や協調性なども評価の基準に組み入れることになるケースが多いです。
③は、売上額を追求することが業務の主目的の営業部であれば、年俸額表を作ることはできても、そうではない部署では、数字でシンプルに成果を表現するのが難しいということです。
「この位の成果だったら年俸額は○○円」ということを決めないといけないのですが、数字で成果を測れない仕事に対して「この位の成果」をしっかり文章や数字で表現するのは大変なことです。
このような理由から、会社の給与・人事評価制度をすべて年俸制度で運用するのはあまり現実的ではありません。私が過去にコンサルをした会社で年俸制度が機能している組織の例としては、「創業からまだ日が浅く、社長が社員一人一人の目標設定と評価をしている会社」や「営業職だけ部分的に年俸制度を導入している」といったケースです。
このように年俸制度の便利なところだけに注目をすると、いろいろなことに不具合が生じるので導入の際は、注意をしてください。